人生エクソダスしてなにものからも自由になりたかった

遁世したい。でもできない中年男の独白。

意を決して「Kamvas Pro16」を買った結果…

 液晶タブレットWacomの独壇場だったのは今は昔。

  昨今の情勢からようやく「Wacom One」という13インチの液晶タブレットをエントリーモデルとして販売したが、それでも4万円を超える”画材”であり、(個人的に”お絵かき”という表現は好きではないが)お絵かきタブレットPCドスパラから同程度の価格帯で出されていることを考えれば、おいそれと失敗したくないというのが人情だろう。

  35800円程度の「Wacom One」

 59800円程度の「Cintiq 16」 

  長らく一強だったWacomがCintiqの16インチ(Proではない)を6万円で出したのも、ミドルプライスでも第一候補になりにくくなってきたからだろう。というのも、中国メーカーのHUIONとかXP-PenとかGAOMONとかが、それこそ12インチ2万円前後、13インチ3万円前後、そして4万円前後で15インチの液晶タブレットを出しているからだ。

 

 1 導入

1-1 購入のチョイス

 今回私が買ったのはそれらのうち深圳のメーカーHUION(絵王)の液晶タブレットである。なんでXP-PenとかGAOMONでないかというと、単純にそれより以前に買った板タブ「Inspiroy」というやつが、それまで使っていたWacom Bambooを交換しても問題ないと思ったくらい使い心地に差異がなく思えたからだ。

 そこでHUIONは信用してもいいかもしれないと思い、思い切って44800円のこいつ(Amazonだと20%オフのクーポンが常態化しているので44800*.8=35840)を買ってみたのだ。

 さて今回のこの「Kamvas Pro16」だが、Amazon(Inking Park JPとHuion Animation-JPの2種類あるがどちらもHUIONの代理店)でも同じ「Kamvas Pro 16」なのに種類が違うものがいくつか含まれていてかなりわかりにくい。

 例えばAndroidスマホにつなげて画面分割できるタイプ、廉価版、実は4K版、という具合だ。たいていスタンドやケーブルといった付属品が違うものだが、RGBカバー率などの仕様で差異があったりするのでタブで複数開いてよくよく仕様を見比べる必要がある

 ちなみに↑のAdobe RGBカバー率92%というのはここまで数値出ていれば上等という程度の数字らしいので、これより高いほど色彩表現が良いわけだがそうすると値段もばっちり跳ね上がる。90%超えていることが合格ラインらしいので、それ以下なら”お絵かき用”なのだろう。

 

1-2 買って使えるようになるまで 

 始末が悪いことにHUION公式でドライバをダウンロードするときも同じ「Kamvas Pro 16」でドライバが何種類も出てくるのでどれをダウンロードすればいいか一見で判別しづらい。

 このドライバダウンロードもまた曲者で、違うドライバをダウンロードしてもとりあえず電源を入れてペン入力デバイスとしては使えてしまうことがある。これだと筆圧感知や入力範囲がうまく機能せず、改めて正しいドライバをインストールしなおす必要がある。このとき間違ったドライバをきちんとアンインストールしてから入れなおすことが大事であり、上書きで処理しようとするとやはり上手くいかなかったりする

 この”電源を入れる”という動作が、板タブで今までやってきた自分としては未知であり、恥ずかしながらケーブルはちゃんと差してるのにどうして動かないんだろうと思ってありもしない嫌疑をHUIONに向けたものだった。

 ドライバが正しく入ればHUIONの「Pen Tablet」の筆圧設定できちんと認識してくれる。

 液タブの利用でとても難渋するのは画質設定だと思う。電源ボタンの対極に配置してある”瓦”を逆さまにしたようなマークのボタンを押しっぱなしにすることで各種オプションを開ける。

 このオプション設定が曲者だった。そして現在でも完全にフィットさせることができていない。

 まず、言語が「英語」「中国語」しかない。これは台湾メーカーのモニターを使ってるとよくあることなので、何となく理解しつつ振れ幅をいじることで何を調整しているのか摑めるようになるのだが、この液タブの場合、調整可能な部分が細かく設定されているおかげで直感的にこれをいじればもう大丈夫という部分がない。

 

1-3 設定をいじる

 大前提として、パソコンの液晶モニターと液タブの画面加工が異なる場合、見えてる色味はかなり変わる。

 具体的に言えば、この液タブはアンチグレア、つまりほぼノングレアである。なので液晶モニターがグレア・ハーフグレアだった場合、発色と黒色表現が結構変わってくる

 一応説明するが、グレアはテカテカの画面で色彩豊かだが室内照明や陽光の反射がとても大きく、ノングレアは光の反射は抑えられる(曇る)代わりにコントラストや彩度が数値より控えめに見える、ハーフグレアはその中間、という具合だ。

 なのでモニターで映っている画像の色味と液タブの色味が一致しづらいところがある。これは他のメーカー、それこそワコムだったら改善されている要素なのかもしれないが、買い比べていないのでそこは断言できない。

 

 設定全般に言えることだが、設定を表示させている時間がデフォルトだと10秒くらいなので、色味をモニターと見比べている時間が長いと設定画面が消えてしまう。なのでまず歯車のアイコンから表示時間をできるだけ長くしておくことをおすすめする。どうせ設定画面を消すなら”戻る”ボタンでいいのだから。

 設定は

  • (Picture)タブレットLEDの明るさ/輝度/コントラスト/シャープ
  • (Display)回転
  • (Color)パネルユニフォーミティ/ガンマ/色温度/カラー効果/デモ/PCM/色相/彩度
  • (Advance)アス比/オーバードライブ(?)
  • (Other)リセット/表示時間/表示位置タテ/ヨコ/言語/透明度/回転
  • 画面情報

 に大別される。

 このうち「Display」の回転と「Other」の回転は同じようなものだが、「Display」の方は0(そのまま)か180(真逆)、「Other」だと0/90/270/180から選べる。これは液晶モニタータブレットデュアルディスプレイする感覚で使える要素で、特にキャンパスが横長より縦長の方が描きやすいという人からすれば便利なのかもしれない。

 「Picture」の部分でいじれる輝度コントラストは明暗調整が中心で、発色の要素に関しては「Color」の部分に依るところが大きい。

 「Color」の"Panel Uniformity"は色の均一性の事らしく、斑ムラの補正をするかどうかということらしい。”ガンマ”の調整で黒色の発色を調整できるのだが、素直に色が暗くなるのでなく赤っぽくなったりするので紛らわしい。色の調整は”色温度”と”カラー効果”で調整できるので、まず全体的な黒の濃さをこの”ガンマ”で決めてしまって細かい色味を別のオプションで調節するのがいいかもしれない。

 ”色温度”は寒色・暖色・ユーザーの三種類で、ユーザー設定だとRGBを各々いじって調整ができる。

 ”カラー効果”は写真とかムービーとかいろいろあり、しいて言えば写真がディスプレイに近いのかもしれないが、ユーザー設定でRYGCBM(赤黄緑シアン青マゼンタ)ごとにHUE(色相)とSAT(彩度)を設定できるので色ごとに細かく調整できる。

 ”デモ”は液タブの表示に赤い線をつけることができる(実際描画されるわけではない)が、正直使いどころがわからないが、もしかしたら液タブに定規を当てて線描するなら役に立つのかもしれない。

 ”PCM”はパネルユニフォーミティがONになっていると使えない。sRGB・Adobe RGB・ユーザーから選べる。正直使いこなせてないのでどう変わるかよくわからない。

 ”HUE””SAT”色相彩度をここで全体的な調整として使える。感覚的にデフォルトの50だと色がきつい感触があるので彩度は40前後でもいいように思える。

 

 結論から言うと使いこなせていない。画面に表示された色味で色相彩度を調整してうまく行ったと思って絵を描いたらなんだか色の濃さ明るさが違うような…という有様で割と途方に暮れている。

 

2 いざ使ってみて

2-1 所感

 液タブデビューの身の上として、紙に書くのと同様にデジタル作画できるということがこんなに嬉しいと思ったことはなかった。板タブの頃は思ったように線が描けず、藤田和日郎のごとく太い線描をホワイトで削り出し(消しゴム)て線を整形するような手間のかかる作画をせざるを得なかった。

 これが手首のスナップを利かせる普通に紙に書く感触で板タブを使えたらよかったのだが、いざ板タブを使うと習字のように腕で描いているような有様だったのでかなりぎこちなかった。

 紙に書くような手の感覚でデジタルでも絵が描けるということはとても大きい。

 その一方液タブ全体の宿命というべき”手で絵が隠れる”という問題が、話に聞いてはいたものの本当に手元・ペン先が隠れて絵が見えない

 描画色で描いているときは画面がわかりやすく変わっているので気が付きやすいが、オブジェクトを操作したり、ベクターで曲線を調整したりするときは本当にどうなっているか分からない時がある。どうしようもないので板タブの頃のようにパソコンのモニターを見ながら作画しているときは、液タブなんか買わずに板タブで作業していた方がよかったのではないかと後悔することがある。

 そう考えた時、15.6インチの作画領域つまり344.2×193.6mmという作業エリアは、見かけのサイズは297*210mmのA4サイズと遜色ないのに窮屈に感じることがある。紙で考えればA4は確かに十分な大きさだが、画像編集ソフトのレイヤーとかヒストリーとかツールのポップアップが両端に置かれているので、絵を描ける領域はいいところ180mm四方くらいになる。除かせばいいという話でもあるが、作画領域を確保するためにツールウィンドウを開閉するのは却って煩雑で面倒くさい。

 と、ここまでは液タブ全般の話。

 

2-2 周辺機器要るの?

 「Kamvas Pro 16」の具合はどうか、というと、とりあえず別売りのフィルムはそこまで必要じゃないように感じた。使い捨てではないとはいえ値段も馬鹿にならない(2000~3000円)上に、そこまで滑って困るということがなかったからだ。 

  逆にスタンドはあるに越したことはない。16インチともなるとノートパソコンのサイズとして考えればかなり大型(せいぜい15インチ)なので、ノーパソのスタンドを代用するにしても安定感に疑問がある。ましてキーボードを叩くノーパソは傾斜がきつくなくていいが、液タブの場合なるべく視点と垂直になっていた方が色が角度で変わることがないので望ましい。そうすると結構な傾斜をかけることになり、普通のスタンドだとずり落ちる。このあたり机にベタ置きでもなんとかなる板タブは場所を選ばないので便利である。

 HUIONの場合、スタンドは別売りでもバンドルでもどちらでも買える。しかし価格は5000円程度であり、なかなか高額でもある。とはいえ買ってさえしまえば角度調整と滑り止めの事を考えなくてよくなるので、予算が本体価格+1万円でも構わない人はスタンドを買ったほうが楽だろう。

 このスタンドにはST200(大)とST300(小)があり、300の方は12インチとか小型向けのスタンドである。

 残念ながらAli Expressでも$49.99とかなので、結局日本で買おうが中国で買おうが値段は変わらない。

 

2-3 使い勝手

 して実際の書き心地は、というと、ちょっとジッターが出る、傾斜によってポイントがずれる、筆圧が強いと押し込んだ感触があるのが大きいように思う。

 

 ジッターは、要は線を引いたときにぷるぷる震えた感じになってしまうもので、髪の毛など素早い線描だと特に影響がないが、そこそこの速度だった場合震えて見えることがある。

 しかし実際シャープペンシルで描いたとしても一発で気に入った線が描けるわけでもなく、消したり加工したりで調整を繰り返すことになるので、手で紙に書いているときと変わらないと言えば変わらない。

 

 ペンの傾斜が45度くらいになるとペン先とポイントが2ミリ前後ずれて見えることがある。手書きの癖をそのままデジタルに持ってきたらうまく行かないパターンであり、いくら書いても認識してくれない角度や大きさというものはある。

 これの解決は画面を拡大して描画することである。認識範囲のフチぎりぎりを描画もしくはクリックしても上手く反応してくれないこともあり、小さな領域に何かしらの操作をしようとすると上手く反応してくれない、という所で共通している。

 普通に使えていたのにポインタがずれることがある。

 前後に「Alt+Tab」とかでブラウザで画像検索してみたりとか、画面の切り替えがあった場合ポインタがずれることがある。これは単純に画像編集ソフトを最小化→最大化するとかの画面切り替えで元に戻ったりするし、それで駄目ならソフトを再起動すれば何事もなかったようにすんなり書けたりする。編集を中座してスリープとか休止状態とかにしてもこんな風になることがある。液タブのせいではなくソフト側の問題だったりするので、画面の切り替え、ファイルの開き直し、ソフトの再起動をまず試してみるのをおすすめする。

 

 ペン先の沈み込み、と言えるかもしれないが、筆圧に対してペン先は繊細である。押し込んだ時にギュッという音と共に沈む感触は、積もった雪を踏んだ時のようだった。デフォルトの筆圧検知は普通の直線比例グラフなので、筆圧が弱いということでなければかなり鈍感な調整にした方がいいように思う。

 ちなみに筆圧設定が「HUION Pen Tablet」では反応するのに画像編集ソフトでは認識しないことがある。スリープや休止状態からの復帰で反応しない、というパターンだ。この場合はまずソフトをリブートすることをおすすめする。

 

3 買ってみた結果

 ちょっと早まったような気もするが、この大きさの液タブを3万5千円くらいで買えたということは大きい。”早まった”というのは、全く不満なく使えているかというとそうでもない、というあたりからくる。

 結局選択要素として、HUIONはとにかく安く、XP-PenはHUIONよりいいかもしれないが高いし、GAOMONは未知数で、ワコムは高級品という所で、何を最優先するかによるのかもしれない。

 そして、ワコムなら何不自由なく使えるかというとそうでもないのは価格ドットコムやAmazonのレビューを見てもトラブルの報告が上がっていることから思い知らされるわけで、ワコムに安心料を払う結果倍ぐらい値段が違うのを許容できるかどうかという話でもある。私の場合、ワコムOneもCintiq16も大満足と言い難い評判を見てしまったことから、それらに5万6万払って後悔する可能性があったことに気が引けたのだ。だとしたら癖があったりいまいちでも、安物の不良品でないのなら買ってみようという所が動機だった。結局金である。

 そして諸々癖があるものの液タブで絵が遜色なく描ける、という導入としては申し分なかった。あるいはワコムの液タブ買うことに抵抗がないくらい金持ちになったら買い替えるかもしれないが、少なくともエントリーモデルとして考えれば上等だと思う。

 

 ふと中国と日本のアニメーターのパワーバランスが変わりつつあるような記事のことを思い出した。

 プロダクションIGのあるアニメーターのインタビューで、Microsoft surfaceで作画やアイデアの書きだしができて場所関係なく仕事ができるという”良さ”をインタビューで言っていたが、あれの値段は15万が最低ラインである。

 そしてCintiqのうちアニメーターが何インチのものを使っているか分からないが、30人ぶんの液タブを用意しようと思ったら、コストの差分は無視できない数字になりそうなものでもある。浮いた経費でもって40人分用意出来たり、給料として還元出来たりするかもしれない。そう考えると、一律で設備をコスト抑えめで導入できるということは、性能が優れているものを頑張って導入しようとして結果できない可能性を考えればはるかに優位性があるように思える。

 無論HUIONは経済特区の深圳発という恩恵をもろに受けているだろう(XP-Penも今は深圳企業?の子会社、GAOMONは全然わからん)から、資金繰りの面で価格勝負に強いのかもしれない。ただ、いくらワコムが優れているからといって、その価格が敷居を上げているのも事実だと思う。